将棋用語の事典。
将棋には、独特の用語がたくさんある。将棋だけに使われる専門用語もあれば、一般にも使われるが将棋の場合は意味が異なるものもある。本書では、そのような将棋用語の意味を一つずつ解説し、各項目ごとに「羽生の眼」として羽生が補足を加えている。
同様のコンセプトの本としては、『日本将棋用語事典』(東京堂出版,2004)がある。両者を比較してみた。
このように、ボリューム・構成・面白さともに少しずつ『日本将棋用語事典』の方が上である。ただし、本書では「羽生の眼」で羽生ユニークな解説が載っていることもある。
本書の特徴を挙げていこう。
「II 将棋用語」はまずまず。羽生らしい記述もいくつかあって、p74「感想戦」、p74「棋譜」、p113「ソフト指し」、p140「盤外戦術」などはぜひ読んでほしい。
「IV 格言」のp208「横歩三年の患い」で、「そこまでは患わないと思う」(羽生の眼)には思わず笑ってしまった。
「V タイトル戦」は、この章だけは五十音順ではなく、序列順で並んでいる。
「VI」の名棋士篇は、物故棋士・引退棋士について羽生が思い出を語る。意外なエピソードも時々登場する。現役棋士については項目自体がない。
また名宿篇は非常に珍しい。実戦図付きでエピソードが添えられている宿もある。タイトル戦の棋譜にはたいてい対局場となる宿名が添えられているが、なかなか読み方が分からない(→単語登録しにくい)宿もあるので、これはありがたかった。ただし、あまりマニアックなネタはなかった。
全体の構成としては、用語は各章ごとに五十音順になっているが、これは「基本〜応用〜発展」にして、検索性は索引で対応すればよかったのでは?対象棋力が「まだ将棋用語の意味がよく分からない人」なので、前から順番に読んでいってもなかなか読みこなせないと思う。また、本文中に別の専門用語が出てきたときに索引で引けないのは少し不便。
また、「羽生の眼」は「羽生でなくても書けるのでは?」と感じた(一部例外あり)。内容紹介に「著者が感じていることを「羽生の眼」として披瀝する」とあるが、
「披瀝」 ひれき
考えをすべて打ち明けること。(大辞林)
心の中を包み隠さずに打ち明けること。(大辞泉) |
「すべて打ち明ける」までには至っていない。
全体的にもうちょっと工夫できたと思う。『日本将棋用語事典』という先行ターゲットがあるので、特にそう感じた。(2010Mar13)
※「もたれる」はやっぱり載っていなかった・・・orz
※誤植・誤字(第1版で確認)
p34 ×「立石活巳」 ○「立石勝巳」
p41 ×「第50図で……棒銀側大いに有望」 第50図は棒銀でなく、スズメ刺しなので無関係。【棒銀】の項の記述は角換わり棒銀に関するものだと思うが、その図がない。第52図を棒銀vs四間飛車でなく、角換わり棒銀に変更すれば意味が通る。
p44 森下システムの“創案”は森下ではない。淡路や青野が指していたのを、森下が連採してシステム化したので、いわば“育ての親”。
p154 ×「無理が通れば通りが引っ込む」 ○「無理が通れば道理が引っ込む」
p206 ×「息切れとなったしまうし」 ○「息切れとなってしまうし」
p272 ×「フォーシーズンほてる」 ○「ふぉーしーずんずほてる」
他の見出しは読みをひらがなで統一している。
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